販売予算の作成について

今回は、販売予算作成における「マスの計算」についてご説明いたします。

2021年1月1日にある製品を販売したとします。

下記のような販売計画を2プラン作成しました。

プラン① 1年目 2年目 3年目
販売数量 78 98 123
前年比   124% 124%
プラン② 1年目 2年目 3年目
販売数量 78 120 240
前年比   154% 200%

プラン①は、毎年前年比おおよそ125%アップを目標とした数字、プラン②は毎年前年比が増加していくアグレッシブなプランとなっています。

みなさんはどのように感じますか?

どちらも前年よりアップしていて表向きはちゃんと伸びているようなプランに見えます。上司に提出するのはプラン①ですかね。プラン②はどうやって伸ばすのか突っ込まれそうです。しかし、どちらのプランもただ単に数字のお遊びにすぎないプランであることはおわかりでしょうか?

プラン①、プラン②とも、わたしが前年比を伸びているように適当に考え、来年はこんなもんかな?っと打ち込んだだけで、見てくれだけを重視した意味の無い数字です。予算を立てる際に会社が前年比110%を目指すといっているので、じゃあうちの部署は120%を目指しましょう、といった、特に月ベースの販売プランも計算せず、見てくれだけのざっとした数字だけ作成する(させられる?)ということもあるのではないでしょうか。もちろん会社の目標ですのでその数字を目指すことに異論があるわけでありません。ただ、数字を作るのであれば、その製品がどのように売れて、どのような戦略をとるから120%伸びるプランとなる、という理由がなければ全く達成が望めない数字となります。

本来、製品の売り上げを見込む際は、その製品を3年後に黒字化する、シェアを何%獲得するなどの目標があって、それを達成するための販売戦略、プロモーション戦略などを、いつ、どのタイミングで行うかをプランニングし、その結果、いつ売り上げがどれだけ伸びるかを計算に入れた上で毎月の販売数量が組み立てるべきであり、それが翌年の販売予算となります。

また先にお示ししましたプラン①とプラン②は私の思いつきで2年目、3年目の伸び率を入力していますが、はじめから毎月コンスタントに販売した製品が単純に回転するのであれば、その回転数を加味しただけでプラン①とプラン②とはかなり異なる数字となります。たとえば、毎月のリピート率が1とリピート率が0.6の場合を説明します。

まず販売した製品のリピート率を1とします。1月にお店に販売した製品は、2月以降、毎月継続して同じ数量を購入して頂けると仮定します。プラン①の場合、1月に販売した製品はリピート率1の場合、2月にも同じく1個売れ、3月、4月・・・と同じく1個ずつ売れるので、1月にお店に販売した1個は、そのお店に12月までに累計で12個販売されることになります。2月に新たなお店に販売した1個の製品は、3月4月・・・と1個ずつ継続的に購入頂けるので2月にお店に販売した製品は、12月までに11ヶ月分、つまり11個販売することになります。以下、3月に新たにお店に1個販売したら3-12月の10ヶ月分で10個、4月に新たにお店に販売した1個は9個、と販売されていきます。わかりやすく「マスの計算」として下記の表1にまとめました。

表1 リピート率1の場合の1年目の販売数量   

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
2月   1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
3月     1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
4月       1 1 1 1 1 1 1 1 1
5月         1 1 1 1 1 1 1 1
6月           1 1 1 1 1 1 1
7月             1 1 1 1 1 1
8月               1 1 1 1 1
9月                 1 1 1 1
10月                   1 1 1
11月                     1 1
12月                       1
販売数量 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
                    Total 78

毎月リピート率が1で回転すると、1年間で78個の製品が販売されます。単純にずっとそのまま売れています、という計算です。

同様に2年目、3年目も同じく回転しますので、1年目に販売した数量は、2年目には1年目の12ヶ月目の数量12個が12ヶ月回転し12個×12ヶ月=144個が販売されます。これに2年目の新規販売分78個が加わりますので、144個+78個=222個になります。3年目は、初年度の回転分144個、2年目の回転分144個、3年目の新規販売分の78個となりますので、144個+144個+78個=366個となります。

1年目に販売した製品は、2年目、3年目と回転、2年目に販売した製品は3年目に回転するしますので、3年間の販売予算を四半期ごとにまとめますと以下のようになります。(下記の表参照)

    1年目 2年目 3年目
  Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4
1年目 Q1 6 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9
Q2   6 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9
Q3     6 9 9 9 9 9 9 9 9 9
Q4       6 9 9 9 9 9 9 9 9
2年目 Q1         6 9 9 9 9 9 9 9
Q2           6 9 9 9 9 9 9
Q3             6 9 9 9 9 9
Q4               6 9 9 9 9
3年目 Q1                 6 9 9 9
Q2                   6 9 9
Q3                     6 9
Q4                       6
Total         78       222       366

3年間をまとめますと下記のようになります。

プラン③:リピート率1での3年間販売した数量

プラン③ 1年目 2年目 3年目
販売数 78 222 366
前年比   285% 165%

プラン①とプラン②と同じ1年目数量は78個ですが、リピート率を加味すると2年目、3年目の数量は大きく変わります。回転率だけ見ればもっと売れる事になります。

なお、実際は毎月同数のリピート購入があるわけではありません。製品によって異なると思いますが、翌月のリピート率を0.6として、次に計算します。マスの計算の考え方では、リピート率1で示しました表1と同じですが、リピート率が0.6ですので初回購入月は1個となり、以降の月の数量は0.6となります。表2に示します。

表2 リピート率0.6の場合の1年目の販売数量
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
1月 1 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6
2月   1 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6
3月     1 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6
4月       1 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6
5月         1 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6
6月           1 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6
7月             1 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6
8月               1 0.6 0.6 0.6 0.6
9月                 1 0.6 0.6 0.6
10月                   1 0.6 0.6
11月                     1 0.6
12月                       1
販売数量 1 1.6 2.2 2.8 3.4 4 4.6 5.2 5.8 6.4 7 7.6
                    Total 51.6

この計算でいきますと、初年度は51.6個、2年目は初年度の0.6の回転分86.4(0.6×144マス)と2年目の新規数量51.6個となり、86.4個+51.6個=138個、3年目は、初年度の回転分86.4個、2年目の回転分86.4個、3年目の新規数量51.6個となりますので、合計224.4個となります。

3年分まとめると下記の表のようになります。

プラン④:リピート率0.6で3年間販売した数量

プラン④ 1年目 2年目 3年目
販売数 51.6 138 224.4
前年比   265% 162%

 

上記のプラン③とプラン④が毎月の販売数量を見越したプランとなります。プラン②の3年目の販売数量とプラン④の販売数量は大きく変わらないかもしれませんが、何も考えていない数字であるプラン②はたまたまプラン④に近かった、というだけです。

プラン④のようにリピート率0.6で回転すると2年目は138個となります。この考えでいきますと、もっと販売数量を増やすためには、どのタイミングで販売戦略やプロモーション戦略を打つと、何月から販売数量が伸び、それが翌年のベースになるというのがより具体的に示すことができます。販売数量を伸ばすため、どの販売戦略、プロモーション戦略を何時やるかがより明確になりますので、販売促進ツールや施策も早めに準備することができ、より具体的なアクションプランが創出できます。

会社によっては、数字ありきで予算が組み立てられますが、本来、販売計画を立てるときは、販売戦略、プロモーション戦略をいつ行うのかをしっかりプランニングした上で、それによって販売数量が立案されるはずです。最初に決めた数字はあくまで目標とした販売数量であり、各戦略の組み合わせによって大きな販売予算が作成されることが理想です。

しかし意外と行われている、ただ単に数字の積み上げたプラン①やプラン②などでは、どのタイピングで何をするという具体的なアクションプランは明確になりません。月ベースで考えていないので、いつから伸びるか示せないからです。よって、予算をセールス提示した際に「販売戦略もちゃんと決まって無いのに、この予算の達成は無理。」と一蹴される可能性が高いですし、もちろん上司にもしっかりとした説明もできません。セールスに販売してもらわなければ予算の達成はできませんので、しっかりとした予算とそれを達成するためのマーケティングプランは非常に重要です。

プラン④で、販売数量をよりアグレッシブに行い、それをセールスや上司に納得してもらうためには戦略を考えなければなりませんが、例えば、

  1. お店の製品のリピート率を上げる戦略 →お店に対する集客率をアップさせる施策 現在、リピート率を0.6で設定していますが、0.8に上げれば2年目、3年目の予算達成が容易になります。
  2. お店の1ヶ月毎の販売数量をUPさせる戦略 →製品が売れる環境をお店に提供する施策や価格戦略 今のプランは、月1個販売するプランですので、月2個販売すれば、予算達成は容易となります。
  3. 販売する店舗数を増やす →チャネル戦略 販売先を2倍になれば、売り上げ数量はUPします。

マス計算で予算を組み立てると、例えばこれらの戦略を、1年目の7月、12月に行うことによって、2ヶ月後にはその効果がでるので、以降の数字はこれだけアップします、ということがセールスにも容易に説明ができます。

具体的なプランを立てると、みんなが納得して動いてくれますから仕事もしやすくなりますし達成感も全員で共有できます。

今回は、具体的な数字の算出方法としてマス計算を用いた方法をお話しましたが、他にも方法があると思います。目的はより具体的なプランの作成ですので、今回の内容が一つの参考になれば幸いです。

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