例えば、注射するときの針が、太い注射針と細い注射針があったとします。 皆さん、どちらで注射して欲しいですか?
もし患者様に太い針と細い針のどちらが良い?、と聞きますと細い方が良いと言われるのではないでしょうか。なぜなら細い方が物理的に痛くないからですよね。
患者様が「針を刺される」という視点で見た場合はその通りかと思います。
しかし、注射することについて、下記のような条件があった場合はいかがでしょうか。
- 太い針は、痛いですが、5秒で終了する。
- 細い針は、そんなに痛くはないですが、1分ぐらい刺している必要がある。
患者様の目線で考えた場合は、やっはり細い針の方が良いですね。しかし、もし5秒と1分もの注射の時間が違うのであれば、太い針でも5秒の方が良いという患者様も出てくるかもしれませんね。確かに5秒と1分というのは少し大袈裟かもしれませんが、お薬の粘度によって実際に注入する時間が針の太さによって変わります。
次に看護師さんの目線で考えた場合、いかがでしょうか。看護師さんの目線で見ると下記のような考えもあるかもしれません。
- ミスなく注射を行いたい。ミスをすると患者様に注射が下手と思われる。
- 毎日たくさんの患者さんに注射しないといけないので早く注射を終了したい。
血液を採取するとき、針を刺したまま採血管を数本交換するのですが、結構長い時間針を刺していますよね。じっとしておかないと針が抜けてしまって採血ができなくなったり、くしゃみや咳などをすると針が血管を突き抜けてしまうこともあります。ですので看護師さんは針が動かないようにしっかり針を押さえてくれますし、血管の状態によっては、翼状針を使って針を固定されます。針が動いて採血ができないのは良いとして、もし患者様が動いたことで針が抜けて、看護師さんに刺さったりしたらおおごとになります。 そう考えた場合、細い針で長時間穿刺したままより、ある程度太い針で短時間に終わらせる方が良いという考えもあります。
そうすると、患者様目線の「痛み」という点だけで見ると細い注射針の方が良いですが、看護師さん目線で見た「刺しやすさ」や「安全性」から考えると、必ずしも細い針が絶対に良いとは言えないわけです。もちろん、針の太さは使用する用途によって異なりますが、全てにおいて「細い針→痛くない=良い針」ということではないのです。使用される看護師さん目線で考えると「太い針→短時間で作業できる=良い針」と考えることもでき、そのときのステークホルダーが患者様なのか看護師さんなのかによって、良い針という概念は異なります。
なんでもそうですが、物事を捉えるときは1つの目線だけでなく多角的な目線で誰がステークホルダーかを見ることが重要ですので注意しましょう。
さて、では実際に患者様も看護師さんのことを考えた場合、どういった針が良いのか?
太い針や細い針という考えではなく、例えば「刺しやすい針」や「固定しやすい針」という考えはどうでしょうか?刺しやすい針で一回で注射することができる、結果、スっと注射してもらって痛くなかった患者様、元々は「痛くない」ことが目的で細い針が良いのではという考えでしたが、太くても刺しやすい針を使用したことによって、結果「痛みなく刺してくれた看護師さん」となり、患者様は痛みはなく、看護師さんはスムーズに手技が行えたことでどちらもハッピーになります。
今回、針に刺されることによる「痛み」という観点でお話を進めていましたが、針を刺されること=「痛み」という点だけでなく、長時間お薬を注射されている痛み、針が動いたときに発生する痛み、看護師さんが刺し方による痛み、などもあります。「痛いのが嫌」という言葉から単純に細い針が良いという考えではなく、いつ、誰が、どんな時に痛みがあるのか網羅的に考えることによって、細い針、太い針にとらわれない、刺しやすさ、固定しやすさなど別の改良点などに気づくことができると思います。ご自身のお仕事でも1つの事柄について色々な角度で検証する癖をつけると、新たな発見があって毎日面白いと思いますよ。