先日、朝礼でカシオ計算機株式会社より発売されている人間工学電卓について話をしました。
この人間工学電卓は、通常の電卓とは異なり、右側に3度傾いています。電卓を打つ時、人の手は外側に3度傾いているからだそうです。また、指のストロークに合わせてボタンの高さも段階的に変えているようです。
これらは、モーションキャプチャで人の電卓を打つ動作の解析や、3次元力覚センサーなどを用いて客観的なデータを分析し、電卓の打ちやすさを追求した結果、生まれた製品のようです。
現在、電卓市場は100円均一ショップでも購入できるほど安価であり、また代替え品としてexcelやスマホで計算が行えるため、日本の市場全体として見た場合、関数電卓ではなく一般的な電卓はどこにでもあるものであり、旨味のある市場ではないと感じます。
その中でこの人間工学電卓は、¥11,550(税込)と非常に高額な価格帯にも関わらず、発売して約1年間で2万台以上を売上げた大ヒット商品となり、金額にして約2億円以上の年間売上げだったそうです。
代替え品や低価格へ移行した、一見して「旨味がない」市場(と私が感じている)にも関わらず、カシオはそこに顧客のニーズを見出し、価値を提案し、高価格帯で販売する製品を導入したことは、非常に参考になる事例と感じ、朝礼でお話をさせていただきました。
この朝礼の後、とある方が「たった2億円だとやる意味がない」と仰っていました。
本当にそうでしょうか?
本当に会社としてやる意味がないのでしょうか?
私は「たった2億円だとやる意味がない」ではなく、「たった2億でもやるべき」とカシオが判断したポイントが何なのかが非常に重要と考えます。
本来、疑問に感じるべきポイントは、年間2,500億円の売上を誇るカシオ計算機株式会社が、なぜ「たった2億円程度」(予算では1億円程度だったようです)の製品の開発、さらに言うのであれば、一般的な電卓のような衰退時期に入ったと思われる市場に対し、会社として開発を進めたのか?、ではないでしょうか。
記事の情報やカシオのHPの情報しか存じませんので、あくまで個人の考えではありますが、
カシオ株式会社が発表している2023年5月11日の中⻑期経営方針を見ますと、 経営方針として「市場に新たな価値軸を創り出し、唯一無二のブランドに育て上げる」とあり、また、『カシオの存在意義は 「市場に新たな価値軸を創り出すこと」 。 一方でカシオは価値軸を育てるのが苦手。その価値軸をブランドに育て上げない限り、消費者とコミュニケーションがとれず、市場ポジションも築けない。』とありました。
カシオとしては、消費者とコミュニケーションをとり、市場のポジションを築くために新たな価値軸を育てていく必要があると考えているわけです。
そう考えた場合、この人間工学電卓は、お客様に価値を提案し、消費者にカシオというブランドイメージ、すなわち「市場に新たな価値軸を創り出せる会社」と認知させることができ、カシオが求めている価値軸を作り出せる製品、と会社が判断されたのではないかと考えます。
「たった2億の売上」と目先の数字だけに囚われて何も手をつけないのか、それとも「この製品がお客様に新たな価値を生む可能性がある」と判断し、開発・販売に着手するのか。
「たかが2億円」、「されど2億円」です。
結果的にこの人間工学電卓は、TBSの「がっちりマンデー!!」や「日経クロストレンド」などのメディアに紹介され、カシオの開発力、また「電卓といえばカシオ」というブランドの再認知が顧客に広がったと思います。
ちなみにテレビCMがあったのか、私は存じていません。
企業にとって売り上げは非常に重要です。しかし、少ない売り上の製品であっても、その製品が市場に対して、また顧客に対してどのような意味をもつものかを理解していないと、結果的に大きな売り上げや会社全体の価値を高めるといった点につながっていくことはないと考えます。
皆さんはいかがお考えでしょうか?
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