最近、YouTubeの「ファスト映画」の動画投稿サイトへの公開を巡り、著作権法違反の疑いで宮城県警が男ら3人を全国で初めて逮捕した、というニュースがありました。
ファスト映画の被害額は約950億円に上るそうです。
確かにファスト映画は著作権法違反であり、それにより広告収入を得ていることも違法です。ただ、これだけの被害額が想定されるということは、そもそもこのようなコンテンツに顧客ニーズがあるということではないでしょうか。
ファスト映画をなぜ視聴したのかテレビの番組でインタビューされていましたが、理由として
- 現在続編の映画があって、前編の映画の内容を把握するため
- 通勤通学の移動中の時間潰し
- ファスト映画だと無料なので普段見ないようなジャンルの映画も気軽に見れる
- 学校、会社での話題作り
などのコメントがありました。
これらから考えられる仮説として、「ファスト映画で見た映画を映画館で見る、又は購入して視聴するという人はそもそも少ないのではないでしょうか?
人の行動は自信が持っている情報の確認作業
通常、何か新しいものに興味を示す場合、何らかの「情報」を入手した上で行動します。例えば新作の小説、新しくできたレストラン、旅行など、そこに行く、購入するという行動に対して、何も情報がないのに本を購入したり、食事に行ったり、旅行に行ったりすることは最近はあまりされないと思います。お金と時間をかけるわけですから、面白くなかった、美味しくなかった、というような失敗に対してのリスクを考えるからです。
実際に小説など購入する場合、最近では例えばAmazonのカスタマーレビューの評判が良い、電子ブックでお試しで何ページが無料で読む、本の帯のコメントを確認するなど、いくつか情報を収集するための手段があります。
レストランに行く場合でも、ぐるなびの口コミの評価を情報として確認することをしませんか?
旅行に行く時も、全く情報がない場所には旅行に行かないですよね?テレビで見て「キレイな場所」と感じ、るるぶやインターネットで現地の情報を前もってインプットすることでさらに期待値が高まったからこそ、そこに行って景色を堪能し、これを現地で食べよう、など考えませんか?
私たちは何かしらアクションを起こすとき、その「情報」を前もって入手し、その情報に対して興味を持ち、「その情報が正しかったのかを確認するため」に本を購入する、食事に出かける、旅行にいく、などの行動を取るように思います。
ぐるなびの評価が悪い=美味しくない可能性が高いと感じているのにも関わらず、それを確認するためにわざわざお金と時間をかけて食べに行きませんよね?
そもそも「情報がないもの」に対して、人は行動は起こしません。
映画館に足を運ぶのはどのような人?
そう考えると映画に関しては、映画を見に行く前に事前に大した情報を入手することができません。身近に入手できる情報というと、映画公開日が近くなった際に行われる、俳優が各局を回って告知するいわゆる番宣や、映画に関してテレビコマーシャルが流れる、といったところでしょうか。
しかし、特に内容が伝わってこない番宣程度の情報で、わざわざ「映画館に足を運ぶ」という手間をかけてまで皆が映画を見に行くでしょうか?
上述の内容だけで映画館に足を運ぼうする人はどういった人でしょうか? 例えば、
- その映画に出ている俳優が好きだから
- 子供が見たい映画(ドラえもん、仮面ライダーなど)だから
- 映画館そのものの雰囲気が好きだから
- 映画の原作漫画や小説を読んで面白かった。その映画のあらすじは理解しているから
- その映画の前評判を知っているから
などでしょうか?
①や②は映画というよりも、そこに出ているキャラクターに興味がある、③は映画を見ることを趣味としているようなCore層となります。ここで重要なのは④、⑤と考えています。つまり、上述の通り、顧客が映画に関する「何らかの情報をもっている」顧客となります。
情報をもっている顧客は、その映画に対して自分がもっている情報、例えば小説の内容がどう表現して映画化されているのか「確認」を行うため、映画館まで足を運びます。それだけ持っている「情報の期待値」が高いということでしょう。
例えば、最近の話題作「鬼滅の刃」は漫画やアニメーションが既に放送されており、みんな面白いという情報は織り込み済みです。それを映画ではどう表現されているのか「確認」に行く。クチコミも含め絶賛されていましたから、この映画の情報の期待値も相当高かったはず。よって顧客は映画館に行ってそれを「確認」せずにはいられないわけです。
佐藤健さん主演の「るろうに剣心」も漫画、アニメーションがすでに放送されていて、コスプレなどでも人気がありました。そこに佐藤健さんや他の人気俳優のファンも集まり、現在で53億円と大ヒットを記録しています。
米国映画の「バイオハザード」も元は世界的に大ヒットしたゲームであり、みんなそのゲームの世界観を知っています。その世界観を確認するため皆さん映画館に足を運びました。また海外映画の場合、先に海外で上映されていることが多く、映画を見る前に海外の評判などの情報も入手できます。
このようにヒットする映画には、事前に顧客に対してその映画に関する「より具体的な情報」があることが共通しています。
また最近は一部の映画でも、YouTubeで映画の冒頭15分間を無料で流したり、メイキング映像を流したり、映画に興味を持たすよう事前に情報を発信し、顧客を集約する手法を取り入れているところもあります。昔のドラマなども数話無料で公開して、続きを見たければどこどこに入会する、といったコンテンツもあります。
他にも、製品に興味を持たすための情報発信ツールという観点でいくと、例えば、電子書籍の「Renta」は、最初の1-2巻や一部が無料で読むことができ、それに興味をもった顧客が他の巻を購入する、などのシステムを取り入れています。
映画会社がファスト映画を見た顧客が求めた情報を発信できれば
今回のファスト映画の事件を良い意味で考えると、映画においてはYouTubeは大きな「情報発信源のとして一定の役割を示す可能性がある」ということが示されたように思います。 昔のようなポスターや広告ではもはや無くなっているということです。
ファスト映画自身はもちろん違法です。勝手にアップして広告収入を得ているわけですから。
しかし、映画配給会社が公式に映画の一部を無料公開する、メイキングを配信するなど、それに加えて映画会社自身で作成したファスト映画を提供することにより、今まで映画に関する情報をもっていなかった顧客に対してより多くの情報を与え、それにより映画に興味をわかせ、その情報を確認するために映画館に足を運ばせる、という環境を整備する為の一つのツールとして活用できる可能性はあるかもしれません。
「事前に情報を入手させる」といった意味で、YouTubeなどは、映画に対しても立派なプロモーション戦略を行うことができるコンテンツになるのではないでしょうか。
人は、知らないものに対して、最初は一定の距離を取りたがります。それをなくすことができるのが、手軽に利用でき能動的に情報を取得できるYouTubeを用いたプロモーション活動になるのではないでしょうか。
何度も申しますがファスト映画は違法です。しかし、それを見ている人が一定数いることは事実であり、それがなぜ多く視聴されているのか?どういう情報を欲していたのか?
ファスト映画を見た顧客が求めた情報を、映画会社自らができれば、より強力な情報発信コンテンツになるように思います。ファスト映画の事件は、視聴者にどのような情報を提供すれば映画館に足を運んでもらえるのか?を考える良い機会になっているのではないでしょうか?
皆さんはいかがお考えでしょうか?