製品を顧客に定着させることによって、一時的なブームで終わるのではなく、顧客に継続して購入して頂くことができるようになります。
私の家の周りには、高級食パンのお店が2つ程度あります。テレビCMも流れている某有名店です。高級食パンは2018年ごろからブームになっておりましたが、高級食パンが売れるとわかると、同じようなそれっぽい名前のお店が次々と参入し、競争が激しくなってきました。そして最近、これら高級食パン店にも淘汰の波が襲ってきているという記事がありました。
スーパーでは、6枚切りの食パン1パックでおおよそ150円くらいでしょうか。同じぐらいの大きさの高級食パンは500円ぐらいしますから、その名の通り高級食パンですね。高いです。
高級食パン店は普通の食パンと違いどこにでも店舗があるものではないので、そこに「希少価値」が生まれ、また「ちょっとした贅沢」というコンセプトが顧客に受け入れられ、一定のセグメント化された顧客に受け入れられています。ただ、今後の顧客の人数や購入頻度を考えた場合、現状の日本の経済状況からは今後大きく顧客数が増加するというのは考えにくく、今のままのセグメントでは、競合他社とのパイの取り合い(顧客の取り合い)がより激しくなり、先述の記事のように淘汰がより激しくなると思われます。
また、競合他社が参入するようになると購入できる機会が増えますので、高級食パンは一時的なブームとなり、タピオカ、白鯛焼きなどはやりの食べ物として終焉してしまうかもしれません。
製品の家庭への定着
では、どのようにして、競合他社がいる中で売り上げを継続的に維持することができるでしょうか?
以前は高級食パンの店舗は少なく、もの珍しさと希少価値もあって連日売り切れもありましたが、最近は競合各社も数多く存在し、実店舗だけでなく大手スーパーの中でも臨時販売を行なったりしているので、比較的購入しやすくなりました。競合他社が増加している中、販売数量UPのため購入者、および購買頻度を増加させる戦略をとってきているのではないかと思います。 しかし、大手スーパーに週末に出店していれば「たまには購入しようかな?」とは思うかもしれませんが、実際は大手スーパーにもパン屋の店舗もありますし、先に菓子パンなどを購入していると追加で高級食パンを購入しようとはなかなか思いません。
本当に購入者、及び購入の頻度を上げ継続的に高級食パンを購入頂くには、その製品が家庭に定着している必要があると思います。
ここでいう「家庭に定着している」とは、高級食パンが普通の食パンや菓子パンと同じように朝食のメニューとして選択肢の1つに入っている状態を意味します。
例えば牛丼の例で考えてみます。
吉野家・すき家などの大手牛丼チェーンは「短時間で食事ができ、価格も安価」であるため、当初は「働いているサラリーマンが短い休憩時間の中で簡単に昼食を済ませることができ、時間を有効活用できる」といった「忙しく時間のないサラリーマンに受け入れられた食べ物」として定着した食べ物だったように思います。このコンセプトでは家庭に定着しません。
ご承知の通り現代は共働き世帯が多く、朝から子供を保育園に預けてフルタイムで働かれる女性も多くおられます。
子供がおられるご家庭では朝は慌ただしく、例えば子供や亭主、自分のお弁当の準備、朝食の準備、子供の学校の準備、朝食後の片付け、洗濯物など色々やることがあります。また、仕事が終わり家に帰ってくると、今度は夕食の材料の買い出し、夕食の準備、洗濯物の取り込み、夕食後の片付け、入浴と、一日中バタバタしており大変です。これが毎週5日続くわけです。
そのような毎日の慌ただしい生活の中で、忙しくて夕食準備の時間がない、疲れて夕食準備をしたくないと思うこともあると思います。そのような時、近くに牛丼屋があれば「今日の夕飯は牛丼で」とサッと購入することができます。もちろんコンビニ弁当やスーパーのお惣菜など購入されると思いますが、そこに「牛丼」という選択肢が追加されたわけです。最近ではテイクアウトでの夕食用のセットメニューの充実、唐揚げやカレーなど牛丼以外のメニューもあり、子供にも好まれる牛丼は、仕事帰りの主婦から夕食の選択肢の1つとなったのではないでしょうか。
そうして牛丼は「忙しい生活の中で時間がない時に、短時間で用意できる子供から大人まで好まれる食べ物」として家庭の昼食や夕食として定着していったと思われます。
高級食パンの定着の方法は?
現在の高級食パンのお客さまのターゲットは誰でしょうか?高級食パン店の開店時間帯で考えると働いている人ではないですね。昼間に家にいる、ある程度お金を持った高齢者や専業主婦になるでしょうか。
競合がいなければその顧客をそのまま独占できますが、競合他社が参入すると顧客の奪い合いとなりますので、売り上げをUPさせるためには新規顧客の獲得や購買数量を増やす必要があります。
顧客獲得のため新製品を投入して単価を上げるという方法もあるかと思いますが、個人的にはあまり得策ではないように思います。そもそも高級食パン店は食パンのみを販売することによって固定費を下げる戦略ですから、新しい製品、例えば菓子パンに近い製品を導入することによって、固定費(ここでは人件費)が上昇する可能性があります。また、主軸である高級食パンの軸がブレます。あくまで「美味しい食パン」を食べるために高級食パン店が存在することがブレると普通のパン屋と同じになってしまい差別化ができません。
さらに最近では、食パンに塗る小倉アンや色々とアレンジするペーストも多数ありますので、食パンを好む顧客に対する選択肢がかなり増えてきました。
これは、現在の高級食パンのターゲット顧客にも高級食パン以外の選択肢が広がっている可能性があることを意味します。
さて下記の調査によると、ご家庭ではおおよそ50%の方が朝食にパンを食べているようです。
朝から和食の準備には手間がかかりますので、簡単に朝食を済ますことができるパンを食べる家庭が多いようです。パン自身は、既に家庭に定着している食べ物であることがこの結果からわかります。
では高級食パンはどのように定着させれば良いでしょうか?
現時点での高級食パンの購入頻度を考えた時、普通の食パンより購入頻度は少なく、スイーツより購入頻度が大きい食べ物と考えられます。 スイーツ<高級食パン<普通の食パン、といったところでしょうか。
定着させるということは、ブームではなく普通の食パンのように継続的に食べてもらわなければなりません。 継続的に食べてもらうにはその食べ物が生活に入り込んだ状態を作り込む必要があります。
高級食パンを頻度が高い状態で食べてもらうにはどうすれば良いでしょうか?
高級食パンの食べ方で一番おすすめなのは焼かずに「生」で食べることです。そういうふうに製造されています。
焼かずに食べるメリットはおいしいだけでしょうか? 先ほども記載しましたが、和食に比べてパンは朝食の準備に手間がかからない点で、家庭に選ばれる主なの要因になっています。
菓子パンはそのまま食べれば良いので朝食の準備に手間がかかりません。高級食パンも「生」で食べることが一番美味しい食べ方なので菓子パン同様に朝食の準備に手間がかかりません。
普通の食パンでそのまま食べるということは少なく、美味しく食べるために「焼く」「ペーストを塗る」「バターを塗る」など手間が掛かります。また一般的なトースターでは2枚しか入りませんので、もし子供が1人いると、旦那さんの分も3枚になりますから。2回焼く必要があります。
パンを焼くと粉もでます。焼いた後は片付けないといけない。和食に比べれば手間はかかりませんが、それでも朝の出勤前には非常に面倒です。 朝の忙しい中、できる限り効率よくしたいと、サラリーマンとして働いている方は多くの方は感じているはずです。
高級食パンは「生」で食べることが一番美味しい食べ物です。
そこで高級食パンの長所である「生」で食べること=加工しなくて良い点から
「朝食を時短できる美味しい食べ物=高級食パン」、「普通の食パンよりさらに簡単に、いつもより美味しく朝食を食べることができるもの=高級食パン」というポジショニングをとることはできないでしょうか。?
高級食パン点の販売時間は、概ね10:00〜18:00ぐらいです。この時間帯だとサラリーマンや共働きの主婦の方が高級食パンを購入しようとしても、帰宅時にはお店は閉まっており、購入できるチャンスが限られています。そう考えると、そもそも共働きの家族をターゲットにしていないかもしれませんね。
例えば、オープン時間を少しずらし、サラリーマンや仕事帰りの主婦が購入できる環境を提供することはできないでしょうか?
会社から帰ってくる際に高級食パンを購入できれば、翌日の朝食としての高級食パンを食することができます。高級食パンは普通の食パンより簡単に準備でき、美味しく頂くことができます。朝が忙しい共働きの夫婦には、手間のかからない食べ物でかつ美味しく食べることができる食べ物として大きな需要がある可能性があります。
「朝の忙しい時間帯に、調理の必要がなく、すぐにかつ美味しく朝食を食べることができる食パン」
上記のようなコンセプトから共働きの人をターゲットにする。
サラリーマン、働いている主婦に定期的に高級食パンを購入できる環境を作りだす。普段から食べることができる環境を作り出せればそれが当たり前となり、自然と高級食パンは家庭に定着します。
家庭に高級食パンが広がり定着すれば「希少価値」や「高級感」がなくなり、価格の低下を懸念されるかもしれませんが、そもそも味という面で差別化ができているわけですから、価格の維持と高級感は維持されると思います。
戦略は色々とあるかと思いますが、ちょっとした贅沢という路線で行くにせよ、今までの顧客だけでは競合とのパイの取り合いとなるわけで、顧客を増やすか購入頻度を増や差ないと売り上げの維持も困難になっていきます。上述のコンセプトであればお客も増やせ購買頻度も上げることができるように思いますが、一つの戦略として皆さんはいかがお考えでしょうか?
まとめ
- 高級、プチ贅沢という視点だけでなく、「生」で美味しいという点でどのようなメリットがあるかも検討する。
- 「生」のままで美味しいということは、「そのまま食せる」という点で朝食の準備の時間を短縮させることができる。
- 今より生活の中に高級食パンを入り込ませ家庭に「定着」させることで購入頻度を上げる。
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