今回はカテーテルの損傷の苦情についてです。
埋め込み型カテーテルを留置されていたのですが、そのカテーテルが体内で損傷してしまいました。これによって患者さんには再度埋め込みが必要になりますし、治療が遅れたり、再留置にて患者さんにも負担を強いることになり、こういった問題には医師もわれわれも非常にナーバスになります。
さて、今回起こった問題については一定数起こり得る事象であり、厚生労働省からも添付文書の改訂の指示も通達されており、それに準じて添付文書の改訂も行なっています。しかし、一回でも発生すると患者さんに迷惑がかかることは事実であり、それをどれだけ回避できるようにするか考える必要があります。
本件に対し医師と面会をするにあたり、今回の事例、及び関連事例について解決方法を事前に準備をしました。ただこの時点では実際の使用状況はわかりませんでしたが、質問を受けるであろう下記の情報を事前準備していきました。
①今回の事例が発生したタイミング(埋め込んでからすぐか、期間が経ってからか)
②埋め込みの方法
③カテーテルを挿入した場所
④過去の発生事例
⑤自社製品、及び他社製品のメリットデメリット
⑥発生を抑制する提案
など。
①の発生したタイミングは、患者さんの体動や埋め込んだ場所によって変わります。②③の埋め込みの方法や場所は、エコーなどの見える化するデバイスを使用していたのか、起こりにくい場所に留置したのかを確認する。④は今まで報告されている文献や自社事え発生している症例とその発生した状況及び写真など。⑥は現在、もっとも起こりにくいと考えている留置方法とその手技の提案、 について情報を集めました。
上記の情報については質問されるであろう問題に対して想定問答集を作成し、そのデータをiPadに全てダウンロードし、質問があってもすぐに回答できるようしました。また私がiPadで回答している際、追加質問された場合にすぐに回答できるよう今回の面会は2名で訪問し、どちらかが即答できるよう同内容の想定問答集を2名で共有しました。
なお、回答する内容は「全て事実ベース」で回答しました。すなわち実際にカテーテルの損傷が起こる件数、販売本数、発生率、米国の情報、現在進めている留置方法、など。もっと具体的に言うとカテーテルは「損傷しないもの」ではなく「損傷するもの」であり、カテーテルを如何に損傷させないよう留置するか、留置場所を検討するか、また自社/他社の製品特徴を理解してもらい、現在の使用状況を鑑みた上で、どこの製品を使用することが一番患者さんにとって良いのか、場合によっては他社メーカーに変更することを推奨するまで視野に入れていました。
この面会の目的は、自社の製品を継続して販売することではなく、患者さんにとってより良い治療を行なっていただくにはどのような製品を使用して、どのような方法を行なうことが一番良いか考え、面会に臨みました。
これは本音でした。とりあえず穏便に済ませ今後使用を続けていただき、その結果、さらなる苦情が発生すればそれは患者さんへの負担だけでなく、会社にとっても大きなダメージが出ます。製品の特徴を理解していただき、現在の治療方法にその特徴がそぐわない場合、別の製品を提案した方が患者さんにとっても自社にとってもメリットがあるからです。
さて、実際に医師に面会しますと非常に憤慨されておりました。 そこでまずはご迷惑をおかけいたことをお詫びしましたが、 こちらが質問をする前に医師からはどうしてこのようなことが起こったのかを説明するよう求められ、発生した事象の原因、同様の事象は海外も含め他施設でも起こっていること、他社製品でも少ない割合ではあるが発生していることを伝えました。
医師からは製品のせいではないかと問われましたが、実際製品によって起こりやすい事象であるためその通りと答えました。一方、これは製品の特徴でもありカテーテルの損傷が発生する可能性があっても、それを加味しても患者さんにとってメリットがあるためご使用頂いていた製品であり、そのことはしっかりと伝え、ご納得いただきました。
そこから細かな製品状況について質問をいただきました。 日本での状況、患者さんによって発生が違うのか、損傷したカテーテルの状態など。
質問には即座に回答しました。また説明中に追加の質問もあった時は、私が説明している間に同行していたマネージャーが調べてその質問を回答し、私はその次に想定される質問を予測し、頂いた質問に対してすぐに回答できるようにする、ということを繰り返し行い、質問に対して即座に対応するようにしました。
質問に即座に対応するということは、悪い意味で捉えると事前準備しており想定内で当たり障りのない対応に見えます。 一方、良い意味で捉えた場合、即在対応できるということは既にその問題点を十分に理解し、その問題に対して会社として対応できる環境を整え、解決策まで提案できることを示します。
なお今回、質問を受けた内容より、私が医師へ伝えたいポイントは以下の通りでした。
「製品の特徴から今回の事象が発生したことは事実である。しかしこの特徴は患者さんの治療において非常に有益な特徴であることも事実である。よって施設の状況が製品の特徴に合うのであれば、トラブルを是正することで患者さんにより良い治療を提供できる可能性はある。」ということでした。
上記のポイントからカテーテルの損傷に関して具体的に写真、イラスト等を用い説明し、メカニズムをご理解いただけました。また質問内容から施設の状況を踏まえた場合、この製品は患者さんにはメリットがある旨説明し、それは納得いただき、ではどのような方法によってカテーテルの損傷などを回避し、そのために留置、管理を行えば良いかを医師とディスカッションを行いました。
もともとは苦情に対する説明ではありましたが、この面会の目的はカテーテルの損傷について謝罪することが真の目的ではなく「どのようにすれば、患者さんに安心して使用し、安全に治療を行うことができるか」が「真の目的」であり、それに関しては医師とディスカッションを行うことで共有できたと思います。これを見誤ると謝罪して終わりという、なんの解決もないまま面会は終了し、そして再発を繰り返し、結果、製品及び会社に対しての信頼を失っていたかもしれません。
医師としては患者さんにより安全で適切な治療を行うことを望まれておりましたので、こちらの提案に対してもディスカッションを交えながら意見交換をすることができ、非常に満足していただきました。結果、医師からは学会で情報を得るほど有用な面会だったとまで言っていただけました。
その後、御施設では大きなトラブルもなく、継続してご使用いただいておりました。また新たな情報があった場合、その情報を共有することもできるようになり、医師とも良好な関係を構築することができました。
先のケース①でも記載しましたが、苦情ではその苦情に関する「真の目的」が非常に重要であり、それを踏まえた上で対応することが、お客様との信頼関係を構築する上で非常に重要であったと感じた事例でした。皆さんはいかがお考えでしょうか。
今回のまとめ
- 事実ベースで話をする。
- 質問には即座に対応する。
- 事前準備を怠らない。苦情について誤魔化すと不信感を与えるだけ。
- 自社製品を「売る」ことに固執しない。患者さんに有益であれば他社を推薦する。
- 信頼関係が構築できれば、今後強い味方になってくれる。