有事が発生した時に早急な判断が必要な場合、会社(部門)の対策・方針が全く決まらない、本来と違った方向にすすんでいる、と感じたことはありませんか?
現場としては、早くその問題を解決するため対応したいと考えていますが、なかなか上層部の判断が出ない、といった状況です。
欧米に比べ日本企業では物事の決断に時間をかける理由(掛かる理由)印象がありますが、それには以下のような理由があると考えられます。
- 組織内での合意形成の重要性:日本では、組織内での合意形成が重要視されます。緊急事態に直面した場合でも、多数の意見を聞き、一定の合意が得られるまで時間をかけることが優先されます。
- リスク回避の考え:緊急事態に直面した場合でも、複数の意見を聞いたり、事前の情報収集を徹底したり、リスクを最小限に抑えるため手順を確認したりすることが重視されます。
そのため、重要な決断をする際には、慎重かつ綿密な判断となってしまいます。しかし、合意形成やリスク回避を考えるあまり、意見を統括することが難しくなり、結論が出ないといったことも往々にしてあります。
本来はどうあるべきなのでしょうか?
上層部は発生した事象に対する責任を取るため、また、現場の判断で最善な解決が得られるよう、適切なサポートを行うことが最も重要なミッションではないでしょうか?
なぜなら、今、発生している事象を一番近くで見ているのは現場であり一番状況を理解しており、次の一手を打つ重要な情報を一番持っているからです。
最近、東日本大震災における福島第一原発の事故についての映画『FUKUSHIMA 50』を見ました。この映画を見たとき、以前見た、1995年に公開された宇宙船の爆発という困難に立ち向かう『アポロ13』という映画での危機への対応の違いを非常に強く感じました。
『FUKUSHIMA 50』は、2011年に発生した福島第一原子力発電所事故を題材にした映画で、原発事故の発生から数日間にわたって、原発内外で働いた職員たちの戦いを描いた物語です。映画の主人公は、福島第一原発の原子炉建屋内で作業する、通称『FUKUSHIMA 50』と呼ばれる職員たちです。彼らは、事故の発生後、放射線被曝の危険を承知の上で、原子炉建屋に残り、冷却水の供給や電源確保などの極めて危険かつ過酷な任務に従事されました。映画は、『FUKUSHIMA 50』の中心人物である吉田昌郎氏、伊崎利夫氏やその家族、現場で働く他の職員たちの姿を通して、彼らの心理的な苦悩や家族との別れ、命をかけた戦いを描いています。一方で、政府や東京電力などの上層部の決断や対応についても描かれています。
『アポロ13』は、1970年に実際に起きたアポロ13号の宇宙飛行におけるトラブルを描いた映画です。アポロ13号は、1970年にアメリカのNASAが打ち上げた有人宇宙船で月面着陸を目的としていました。しかし、宇宙船の爆発により、乗組員たちは急遽帰還することを余儀なくされました。
映画では、アポロ13号の乗組員であるジム・ラヴェル、ジャック・スウィギアート、フレッド・ヘイズの3人の姿が描かれています。彼らは宇宙船の爆発によって発生した酸素の流出、電源の喪失など、生存するための様々な困難に直面します。
この問題に対し、NASAの地上チームは、乗組員を救出するために懸命に任務に従事します。主任技術者のジーン・クランツ氏をはじめとする地上チームは、乗組員の生存に必要な酸素、電源などを確保するために奮闘し、新たな方法を考案して危機を乗り越えます。映画では乗組員と地上チームの壮絶な戦いと、その中での助け合いや団結力が描かれています。そして、彼らの奮闘の末に、アポロ13号の乗組員は帰還のための手段を見つけ、地球に無事帰還します。
この2つの映画を見たとき、有事の際に対応する方法や考えに大きく異なる点を感じました。
「FUKUSHIMA50」では、現場での対策案について、その方法や実行する内容、実行のタイミングなど、都度、東京電力本店や官邸より指示が入りました。さらに、本店と官邸との間で情報共有や意思疎通が適切に行われていなかったため、適切な指示が行われず、現場で行うべき作業が進まなくなるシーンが多く描かれています。
本店と官邸の情報共有の不備もあり、首相の現地視察による現場作業が中断したり、原子炉を冷却するための海水注入の中止指示が入ったり、安全確認中での作業開始の指示などが行われます。こんなことをされると不信感しか生まれませんね。
こう言った実際のやり取りは、YouTubeで見ることができます。非常に緊迫感があります。
一方、『アポロ13』では政治家や大統領が映画に出てくるシーンはありません。唯一、ニクソン大統領が宇宙船乗組員の帰還できる確率をNASAの地上チームに確認するシーンがありますが、これも広報を通じての確認であり、画像も音声も映画では出てきません。
『アポロ13』では、地上チームのフライト・ディレクターであるジーン・クランツ氏を中心に、ヒューストンにいるメンバー自らがそれぞれ考え、解決案を導き出し、ジーンがその内容を精査し、すぐに決定、行動にかかります。その積み重ねの結果、数々の問題点を克服し、見事、乗組員を地球に生還させます。
そしてこの見事なまでの生還劇は、後に「輝かしい失敗 (successful failure)」と称えられるようになりました。
ジーン氏は仕事に対する流儀といえる、有名な10か条を残されています。
- Be proactive(積極的に行動せよ)
- Take responsibility(自ら責任を持て)
- Play flat-out(目標に向かって脇目を振らず、速やかに遂行せよ)
- Ask questions(分からないことは質問せよ)
- Test and validate all assumption(考えられることはすべて試し、確認せよ)
- Write it down(メモをとれ)
- Don’t hide mistakes(ミスを隠すな)
- Know your system thoroughly(自分の仕事を熟知せよ)
- Think ahead(常に先のことを考えよ)
- Respect your teammates(仲間を尊重し、信頼せよ)
これらの項目は特に難しい内容ではありません。ひとつひとつはどこかで聞いたことがあるような平易な項目です。これらの項目は映画『アポロ13』の中で実行されています。
そして面白い事に、この十ヵ条は『FUKUSHIMA 50』でも吉田所長を含め、現場では実行しています。
例えば、
「自分の仕事として熟知せよ」は、若い技術者が自分が一番知っているからとベントバルブを解放するために、放射能汚染を顧みず自ら「積極的に」放射能レベルの高い原子炉に向かおうとします。
「自ら責任を持て」では、自分達しかこの事故を解決できないと考え、誰一人として原発から逃げることなく、原子炉を冷却しようと行動します。
「考えられることはすべて試し、確認せよ」は、冷却水が無くなった際に現場の判断で海水での冷却を開始したり、計器の駆動のためのバッテリーが本店から届かない際には、作業員の車のバッテリーを集め、それを用いて計器を稼働させます。
緊急事態になった際、現場の作業員は自分達しかこの危機を打開することができないことを十分にわかっており、実際にそれを実行しようとしているわけです。
しかし残念な事に、こういった行動に対して『FUKUSHIMA 50』では本店や官邸が指示を出しすことで、現場に混乱を生じさせるだけでなく、作業の中断まで発生してしまいました。これに対し映画では吉田所長が本店に対して「ディスターブしないでください。」との言葉を発しています。
「ディスターブ(邪魔、掻き乱す)する」、この言葉がまさに物事が進まない、決断が遅い日本の縮図であり非常に重い言葉であると言えます。
この言葉は実際の現場の中で発せられた言葉であり、こちらのやり取りもYouTubeで見ることができます。
「ディスターブ(邪魔、掻き乱す)する」。会社でも同じように感じることはないでしょうか?
発生した事象に対して対応をするのは現場であり、現場ではどうすれば良いか最善の方法を考えています。しかし、現場をよく理解していない本社や上層部に指示を仰ぐと、プライドや面子など本来は判断に必要ないものも加味され、論理的思考による解決が行われなくなってしまいます。
福島第一原発事故は日本の存続に関わる大きな事故であり、それ故に官邸・本店が確認しなければならないことは否定はしません。そのための「組織内での合意形成」であったり「リスク回避」は非常に重要です。しかし緊急案件の場合、状況を把握していない上層部ではなく、状況を最も理解をしている現場の判断で危機が回避できるか、その可能性を速やかに検討する必要があり、それが行動した『アポロ13』と行動ができなかった『FUKUSHIMA 50』との大きく異なる点であったと考えます。
一番の情報と知識を持っている現場のトップの判断・対応を信じ、その方法について上層部は報告を受け、邪魔をせず、その対応をスムーズに行えるようサポートするのが本来の上層部の仕事であると考えます。
なお、2011年の福島第一原発の事故も現場の適切な判断によって危機的状況を回避でき、吉田所長の対応には、専門知識や経験に裏打ちされた的確な判断があったと考えられています。
会社でも余計な忖度や面子などバイアスを除き、本当に必要な対応を『アポロ13』のような対応がに普通にできるようになれば、組織としての信頼関係の向上、社員一人ひとりのモチベーションの向上が期待できるように思います。難しい判断なのかもしれませんが参考にしていきたいと考えています。
皆さんはいかがお考えでしょうか?
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